「時事通信社」発行の”コメントライナー”に話し方やコミュニケーションについて執筆しています。
2番目の悪者にならないために
第8494号 2026年2月3日(火) [印刷用PDF]
元日恒例ウィーン・フィルハーモニーのニューイヤーコンサートで指揮者のヤニック・ネゼセガン氏が世界に向けて発したメッセージにその演奏同様、強く心を打たれた。
優しさこそが平和をもたらす、お互いへの優しさ、違いを受け入れ、祝福する優しさを持とうと呼びかけ、そして、音楽は私たちを一つに結ぶことができる。なぜなら、私たちはこの同じ惑星で生きている者同士だからだ、と結んだ。誰もが世界平和を願わずにはいられない2026年の年明けであった。
◆いきなりの衆院選、思い出した絵本
日本ではいきなりの衆議院解散による選挙戦に突入した。今回の選挙でもSNSや動画サイトなどインターネット上に拡散する真偽不明の情報を否応なしに見聞きする。報道機関によるファクトチェックも行われているが、目にする情報に対して、これは正しいか?根拠は?発信元は?など考えながら読むのは結構疲弊する。有権者も大変だ。
「もう、どうでもいいか」と、関心を失いかけたときに思い出したのが絵本「二番目の悪者」(2014年、小さい書房発行、林木林/作、庄野ナホコ/絵)だ。物語の冒頭は「これが全て作り話だと言い切れるだろうか」という一文で始まっている。
あらすじはこうだ。動物王国で次の王様を決めることになった。自分こそが王にふさわしいと思っている金のライオンは、ライバルである心優しい銀のライオンを蹴落とすために根も葉もない悪い噂を流す。
◆「嘘は向こうから巧妙にやってくる」
最初は誰も信じなかったが、疑いながらも話題にすることでじわじわと悪い噂が広まっていき、やがて、真実として信じられるようになった。「火のないところに煙は立たないっていうからね」。銀のライオンは、誤解はいつか解けると思い、苦笑するのみ。その結果、金のライオンが王様に選ばれる。
ところが、王になった金のライオンは好き勝手に国を治め、たちまち国は荒れ果ててしまう。動物たちは嘆く。「どうしてこの国はこんなことになってしまったんだろう」。頭上の雲がつぶやく。「本当に金のライオンだけが悪かったのか・・・?」
タイトルにある「二番目の悪者」とは誰のことなのか。聞いた話を何となく仲間や家族に知らせたり、届いたメールを転送した動物たちか。転がるような勢いで噂は膨れ上がっていったが、悪意があったものは誰もいない。ただ、誰も自分の目で確かめようとしなかっただけ。銀のライオンも噂を否定せず、沈黙していただけ。一部始終を見ていた雲の声。「嘘は向こうから巧妙にやってくるが、真実は自ら探し求めなければ見つけられない」「誰かにとって都合のよい嘘が世界を変えてしまうことがある」「だからこそ、何度でも確かめよう」
◆無関心にならず、真実を見極め、選択する
この絵本では、真実を見極める重要性とともに、無関心や沈黙の危険性も指摘されている。大人のためのボランティア朗読会でこの絵本を紹介したところ、参加者の1人がぽつりと「現代の怪談みたいですね」と感想を漏らした。妖怪や幽霊は出てこないが、確かにうすら寒い。しかし、冒頭の一文を思い返す。「これが全て作り話だと言い切れるだろうか」
ヤニック・ネゼセガン氏のメッセージにあった。平和とは、心の中の平和、周囲の人々との平和、世界中のすべての国々の間の平和だと。その一歩は無関心にならず、真実を見極め、選択することだ。
信頼される女性リーダーの話し方
第8448号 2025年11月21日(金) [印刷用PDF]
我が国で最も高い「ガラスの天井」を破って高市早苗首相が誕生してから1カ月。支持率は歴代屈指だという。若年層の支持が高いと聞いて、女子大の授業で高市首相をどう思うか尋ねてみたところ、「自民党総裁選での各候補のスピーチを聞いて、この人がなると確信していた」、「笑顔があって、親しみやすい」、「外交のときに堂々としていてかっこいい」、「国会答弁であいまいにぼかしたりせず、順序立ててきちんと話しているのがいい」など注目度が高く、中には「女性初がプレッシャーになって頑張りすぎないか心配」という声もあった。
◆サッチャー元首相、「常に低く、落ち着いた声」
高市首相が目標としている政治家はマーガレット・サッチャー元英首相だとか。その影響だろうか、話すときの声のトーンを意識的に低くしているようだ。
サッチャー氏は本来、高めの声だったが、常に低く、落ち着いた声を心掛け、自信と威厳に満ちた「鉄の女」を演出したと言われている。
高市首相も第219臨時国会における所信表明演説では、冒頭からの執拗なやじにもひるむことなく、終始力強く落ち着いた声で約28分間を話し切った。普通はやじに心乱されないよう、感情を抑えたり声を強めたりすると、肩に力が入って喉が締まるために声がかれてきてしまうものだ。相当に鍛えていると感じた。
聴覚障害者のための国際総合大会、デフリンピックの開会式では、満面の笑みをたたえ、明るめのトーンでゆっくり抑揚をつけて。北朝鮮による拉致問題についての記者会見では、低いトーンで一言一言、言葉を選ぶように丁寧に。経済財政諮問会議では、出席者全体に目線を配りながら真剣な眼差しでやや早口で。
このように、目的と対象、場所によって声や話し方、視線・笑顔などを切り替えている。各国首脳との会談では相手とアイコンタクトをしっかりと取りながら話すことで「意志の強さ」を、「笑顔で余裕」を感じさせた。
◆女性活躍、高市流から学ぶ
男性が多数の組織で女性が活躍するために、高市流から学べることがたくさんある。まず、声のトーンと速さ。普段より低めのトーンでゆっくり話そう。胸に手を当て、そこに声を響かせるつもりで話すと落ち着いたトーンになる。
高市首相の所信表明演説は1分間に273文字程度。呼吸を整えたり、キーワードに抑揚をつけたり、適切な間(ま)を取るなどの工夫ができる速さだ。言葉に思いが乗り、説得力が増す効果がある。また、一つの文を短く35~40文字程度にまとめ、文末を「です、ます」で言い切るように話すと、メッセージが明確になるばかりでなく、文末まで声を安定して保つことができ、信頼感につながる。
◆アイコンタクト・笑顔・姿勢で自分演出
アイコンタクトと笑顔、姿勢にも学びたい。信頼関係を結びたい相手と話すときは手元の資料ではなく、相手の目を見て話そう。笑顔も織り交ぜると自信も演出できる。
外国の首脳を迎えた際、背筋を伸ばし、やや大きめの歩幅で近づき、笑顔で握手をする首相の一連の立ち居振る舞いがとても堂々としていた。女性はチョコチョコ歩きがちだが、いつもより一足分、遠くへ足を出すつもりで歩くと良い。
そう、「いつもより一歩遠く、一歩高く」の意識を持って自分を演出することが信頼を勝ち取る。
解きほぐして伝える
第8401号 2025年9月12日(金) [印刷用PDF]
◆「心に響く」とは
先日、仏教のある宗派の研修会に招かれ、2日間にわたって法話の指導を行う機会があった。「声・話し方」「話の内容」「表情・姿勢」という三つの観点からアドバイスを行ったのだが、相手の心を動かし、導くことを目的とした法話は、究極のプレゼンテーションだと感じた。
目指すのは「相手の心に響く法話」。「心に響く」とは、相手がその話を理解・納得して自分の中に落とし込み、明日からそれを実行していこうという気になり、その背中を押して導く力となることだ。
そのために、声を効果的に使えているか、発音は明瞭か、話す速さは適切か、内容は正しいだけでなく、一般人にも分かりやすいよう、話の構成、展開の工夫がされているか、具体的で伝わりやすい言葉に言い換えているか、視線や表情、ジェスチャーは、などなど細かくチェックを行った。特に内容については、仏教の教義など全く門外漢の立場で関わったことで、率直に分からないところを分からない、と指摘することができ、踏み込んだフィードバックをすることができた。
◆五つのプロセス
そのポイントを専門的な話を解きほぐして説明する際の五つのプロセスとして以下にまとめた。
仏教用語を例に挙げているが、ビジネスでの専門用語やキーワードを専門外の人に理解してもらいたいときの参考にしていただけたら、と思う。
「忘己利他(もうこりた)は、己(おのれ)を忘れて他を利するは慈悲の極みである、という伝教大師の言葉から来ています」(第1段階:言葉の説明)、「自分のことを後にして、まず人に喜んでいただくことをする、それは仏様の行いで、そこに幸せがあるのだ、ということです」 (第2段階:やさしい言葉への言い換え)、「つまり、忘己利他は自分の都合や損得勘定を離れて、相手の立場になってものごとを見、行動していくことを言います」(第3段階:意味の説明)、「マザー・テレサにこんな逸話があります・・・」「これは私の体験ですが・・・」(第4段階:具体例や例え話、実体験を話す)。
こうして専門用語をほぐしていき、最後の第5段階で「私たちも仕事において自分のことよりもまず相手を思いやる気持ちを持つ、例えば取引先と・・・」のように実践につなげるための行動例を示す。
そのことで得られるもの、例えば「こういうことを日々積み重ねていけば私たちの心はどれほど豊かになるでしょう。そして周囲との信頼関係も・・・」など示すことができればより腑に落ちやすいだろう。
◆心と言葉の感性に磨きを
プロセスの中で最も難しいのは第4段階だ。本質を正しく深く自分が理解していなければ適切な具体例や例え話を示すことはできない。対象に合わせてより共感を得られる話を選ぶことも大切だ。
どんなに有意義な話でも、相手がそれを自分事として捉え、行動に結び付けることができなければ、相手の心に響いたことにはならない。これぐらい分かっているだろうと思わず、相手に合わせて丁寧にプロセスを踏んでいくことだ。
そのために不可欠なのは自分自身が豊かな話の引き出しを持っていることだ。心と言葉の感性に日々磨きをかけることを忘れてはいけない。
<バックナンバー>
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| 第8354号 2025.7.8 | 自分の声に耳を澄ます |
| 第8307号 2025.5.1 | ハラスメントにならない指導法 |
| 第8259号 2025.2.21 | 首相の対話力、スピーチ力、外見力 |
| 第8212号 2024.12.9 | 歩み寄りと対話を大切に |
| 第8165号 2024.10.1 | 自分の言葉で語るということ |
| 第8115号 2024.7.23 | 県知事のパワハラ疑惑に思う |
| 第8067号 2024.5.20 | 聞く力が信頼を生む |
| 第8019号 2024.3.11 | 聞き手を引きつける三つのスキル |
| 第7972号 2024.1.4 | 好感度の上がる新年のあいさつ を |
| 第7926号 2023.10.30 | コロナ後のストレス管理 は呼吸から |
| 第7881号 2023.8.28 | 日米韓首脳のスピーチ力 |
| 第7839号 2023.6.30 | 多様性前提のコミュニケーション能力 |
| 第7795号 2023.5.2 | 「熱い心」が聞き手に伝わる |
| 第7752号 2023.3.14 | 女性リーダー育成のために |
| 第7709号 2023.1.23 | 阪神淡路大震災、語り継ぐ使命感 |
| 第7665号 2022.11.21 | 「説明責任」は死語? 知らんけど |
| 第7622号 2022.9.27 | コミュニケーション勘を取り戻せ |
| 第7583号 2022.8.4 | 羽生結弦が発した言葉 |
| 第7537号 2022.6.9 | 草木から色が出るように |
| 第7499号 2022.4.18 | 性別による無意識の思い込み |
| 第7456号 2022.2.18 | 「ウィズコロナ」でどう伝えるか |
| 第7412号 2021.12.20 | 岸田首相の話し方に思う |
| 第7373号 2021.10.26 | 声を磨く朗読の勧め |
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| 第7285号 2021.7.8 | WEB面接、採用担当は万全か |
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| 第7202号 2021.3.18 | 言葉は澄んでいるか |
| 第7161号 2021.1.28 | リモート授業の忘れ物 |
| 第7117号 2020.11.19 | 見事!カマラ・ハリス氏のスピーチ |
| 第7077号 2020.9.28 | 菅首相のキャラと話し方 |
| 第7033号 2020.7.30 | 心に響かない伝え方 |
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| 第6886号 2020.1.9 | 安倍首相の話しぶり、5年前と比べると |
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| 第6388号 2018.2.14 | 肝心なのはコミュニケーション力 |
| 第6352号 2017.12.18 | 共感を呼ぶ言葉、反発を呼ぶ言葉 |
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